30年越しの「大どんでん返し」
2026年1月、アメリカ政府(HHS/USDA)が発表した新しい食事ガイドラインは、私たち医療関係者だけでなく、世界中に衝撃を与えました。
何が起きたのか? 一言で言えば、「私たちが慣れしたしんだ『フードピラミッド』が、完全にひっくり返された」のです。
まず、私たちがよく知っている、1992年にアメリカで策定された「旧フードピラミッド」を思い出してください。
[図1:1992年フードピラミッド]
▲ 1992年に策定された旧フードピラミッド。底辺には穀物が6-11サービング、タンパク質はわずか2-3サービングでした。
【過去の常識(1992年〜)】
土台(一番多く食べるべきもの)は、パンやパスタ、シリアルなどの「穀物・炭水化物」でした。1日6〜11サービング(食)という驚異的な量が推奨されていました。一方で、肉や魚、卵といったタンパク質は上から2段目の小さな枠に押し込められ、1日わずか2〜3サービング。脂質は「悪者」として頂点に追いやられ、「控えめに」と警告されていました。
この構図が、世界中の食事指導のスタンダードとなり、日本にも大きな影響を与えました。「炭水化物をたっぷり、脂質は控えめに」——この教えを、私たちは30年以上信じてきたのです。
しかし、このガイドラインが導入されて以降、アメリカでは肥満と糖尿病が爆発的に増加しました。「低脂肪なら太らない」という神話は崩壊したのです。
新しい常識は「逆ピラミッド」
そして今回、発表された2025-2030年の新しい図は、ピラミッドが逆転し、「逆三角形」の構造になりました。

[図2:2025-2030年新ガイドライン]
▼ 2025-2030年版の新しい食事ガイドライン。プロテインと野菜・果物、ヘルシーな脂質が上部に配置され、穀物は最小限に。ピラミッドが完全に逆転しました。
【新しい常識(2025年〜)】
ご覧ください。かつて土台だった「穀物(Grains)」は一番下(最小限)になり、代わりに「プロテイン(肉・魚・卵)」と「野菜・果物」、「ヘルシーな脂質」が最優先の土台となりました。
「カロリー」ではなく「栄養の質」を重視し、「Eat Real Food(本物の食べ物を食べよう)」というメッセージが打ち出されたのです。
加工食品(Ultra-Processed Foods)の排除。人間が本来口にしてきた「原型のある食品」への回帰。まさに、30年越しの「歴史的なリセット」が起きたのです。
12年前の提言と、奇妙な一致
私が今回の発表を見て、最も感慨深く、震えるような思いがしたのは、「タンパク質の推奨量」の記述です。
今回の米国ガイドラインでは、タンパク質の目標量が従来の体重1kgあたり0.8gから引き上げられ、「1.2g〜1.6g/kg」が推奨されました。
実は、この数値、私が2013年に作成した「ケトジェニックダイエット実践のガイドライン」と全く同じなのです。

[図3:2013年ケトジェニックダイエット実践のガイドライン]
▲ 2013年に齋藤医師が策定したケトジェニックダイエットのガイドライン。ステップ①で「1日あたり1.2〜1.6g/kgのタンパク質の確保」を掲げていました。
【2013年の提言】
当時、私が健常者向けにケトジェニックダイエットを再定義した際、ステップ①として「1日あたり1.2〜1.6g/kgのタンパク質の確保」を掲げました。
当時、「タンパク質をそんなに摂って大丈夫か?」という声もありました。しかし、機能性医学の観点からは、これが譲れないラインだったのです。単なる筋肉維持にとどまらず、ホルモン合成、神経伝達物質の材料、ミトコンドリアの機能最適化——これらすべてを考慮すると、従来の推奨量では明らかに足りなかったからです。
あれから12年。ようやく世界基準が、この数値に追いついてきました。医師として、これほど嬉しいことはありません。
機能性医学が説く「美とタンパク質」の真実
なぜ、私は12年も前から「1.2〜1.6g」にこだわったのか。そして、なぜ美容内科でこれを強調するのか。
機能性医学において、タンパク質は単なる「筋肉の材料」ではありません。肌のコラーゲン、髪のツヤ、代謝を回す酵素、心の安定に関わるホルモン……これら全ての「原材料」だからです。
私たちの体は、水分を除けばほとんどがタンパク質でできています。タンパク質不足とは「材料不足による工場の操業停止」に等しいのです。高価な美容液を塗っても、最先端のレーザー治療を受けても、内側の「材料」が枯渇していては意味がありません。真の美しさは、決して外側からだけでは作られないのです。
従来の「0.8g/kg」は「死なないための最低ライン」に過ぎません。私たちが目指す、美しく、若々しく、活力にあふれた状態(オプティマル・ヘルス)を実現するには、「1.2〜1.6g/kg」が必要不可欠なのです。
今回の米国ガイドラインが示した数値は、単なる栄養所要量ではありません。「人間が人間らしく、美しく健康に生きるための最適量」への指針と言えるでしょう。
日本人の食卓に警鐘を
ひるがえって、現在の日本はどうでしょうか。
おにぎり、うどん、パスタ……手軽な食事で済ませ、まさに「1992年の旧ピラミッド」のような食生活を送っている人があまりに多いのが現状です。
厚生労働省の調査データを見ると、現代日本人のタンパク質摂取量は年々減少しています。驚くべきことに、戦後間もない1950年代の水準まで落ち込んでいるというデータもあります。
「粗食こそ健康に良い」「野菜中心なら安心」。そんなイメージが先行し、肝心のタンパク質——肉・魚・卵——が疎かになっている患者さんを、私は診察室で数え切れないほど見てきました。
これでは、どんなに高価な美容医療を受けても、効果は半減してしまいます。「材料」のない工場で、製品は作れないからです。
このままでは危険です。筋肉が減少する「サルコペニア」、肌や髪のハリが失われる「フレイル(虚弱)」。こうしたリスクは、もはや高齢者だけの問題ではありません。ダイエット意識の高い若い世代にも、確実に広がりつつあります。
あなたの頭の中のピラミッドも、ひっくり返しませんか?
1992年のフードピラミッドが生まれてから33年。
「穀物を減らし、肉・魚・卵・良質な油を恐れず食べる」
アメリカが国を挙げて認めたこの「新しい正解」は、私が長年臨床現場で伝え続けてきたことそのものです。私たち日本人も「和食=ヘルシー」「炭水化物中心で良い」という思い込みを一度リセットする必要があります。
12年前に私が提唱した「体重1kgあたり1.2〜1.6g」のタンパク質。これこそが、細胞レベルから美しさを底上げし、揺るぎない健康を手に入れるための「黄金律」なのです。
フードピラミッドは、ひっくり返りました。次は、私たち一人ひとりの食卓が変わる番です。
さあ、今日からあなたの頭の中のピラミッドも、ひっくり返してみませんか?


