セロトニン美容の可能性 〜 “心・体・美”をつなぐ脳腸ホルモンのチカラ〜

はじめに

私たちの身体の健康や美容は、単なる外見のケアにとどまらず、「心と体の内側から整える」アプローチが求められる時代に入っています。その中心的な役割を果たしているのが、神経伝達物質セロトニンです。

 セロトニンは、気分の安定やストレス緩和、自律神経の調整などに関わる“心の安定ホルモン”として知られていますが、実は美容、睡眠、女性の健康、そしてアンチエイジングとも密接な関係を持っています。本稿では、医療・健康従事者として知っておきたい「セロトニン美容」という視点について、最新の知見を交えてご紹介します。

セロトニンは「脳」ではなく「腸」で作られる

 セロトニンというと脳内物質のイメージが強いかもしれませんが、実際にはその約90〜95%が腸で産生されており、腸内細菌の代謝や腸粘膜の状態によりその分泌量が影響を受けます。近年、「腸は第2の脳」と呼ばれるようになりましたが、まさに腸内環境を整えることがセロトニン分泌を促進し、心と体、美容までも支える“脳腸相関”の中核となっているのです。

セロトニンが美容に及ぼす多面的な影響

 セロトニンは、自律神経のバランスを整え、血行やホルモンバランスを安定させる作用を持ちます。これにより、肌のターンオーバーが正常化し、くすみやむくみの改善、睡眠による肌再生の促進といった、美容面でのメリットが生じます。

 さらにセロトニンは、夜間に睡眠ホルモン“メラトニン”の材料となり、深い眠りを導く重要な要素です。質の高い睡眠は、コラーゲン産生や皮膚修復の促進にも寄与するため、「セロトニン→メラトニン→美容」というホルモン連鎖が存在しているのです。

女性にこそ必要な「セロトニンケア」

 エストロゲンはセロトニン分泌をサポートするホルモンですが、月経前・産後・更年期などのタイミングでは大きく変動し、セロトニンの働きが不安定になります。そのため女性は、男性よりもうつやPMS、自律神経失調症、睡眠障害、疼痛過敏などが起こりやすく、美容トラブルとも無縁ではいられません。

 実際に、女性のセロトニンの分泌量は男性の約52%程度とされており、体質的に不足しやすいと言われています。このような背景からも、女性にとって“セロトニンを整える”という視点は、美容と健康を両立するための基礎ケアといえます。

高齢者とセロトニン健康長寿への影響

 加齢に伴い、セロトニンの分泌能力も低下していきます。これにより、高齢者では不眠、気分の落ち込み、認知機能の低下、慢性の痛み、めまいなどの症状が増加し、QOLの低下につながる可能性があります。

 一方で、朝の光を浴びる、軽い散歩をする、発酵食品を摂るといった日常的なケアでセロトニン分泌を促進することは、高齢者でも十分に可能です。セロトニンケアは、介護予防・フレイル対策・メンタルヘルス支援の一環としても重要な位置づけにあると考えられます。

明日からできる「セロトニンケア」の実践法

 セロトニンケアは、日常生活の中でもできます。特に以下のような習慣は、科学的にもセロトニン分泌を高めるとされています。

・朝日を浴びる(起床後30分以内に10〜15分)
・リズム運動(ウォーキング、呼吸法、咀嚼など)
・腸内環境の改善(発酵食品・食物繊維の摂取)
・心地よさの体験(音楽、香り、笑顔、人とのふれあい)

 これらを継続的に取り入れることで、心・体・美のバランスを整えるセロトニン美容習慣が実践できます。セロトニン分泌をサポートするサプリメント(ラフマ葉エキスなど)を摂るのもおすすめです。

おわりに 〜セロトニンはホルモンケアの盲点から基盤へ〜

 美容医療やアンチエイジング医療が高度化する一方で、「自律神経・睡眠・メンタル・腸内環境」といった基本的な生体リズムのケアが見過ごされがちです。セロトニンという脳腸ホルモンの役割を再認識することで、私たち医療従事者がより包括的な美容と健康のアプローチを提供する基盤が築かれます。


 本学会としても、セロトニンに注目した研究・教育・啓発を今後さらに推進していくために「セロトニン美容研究会」という分科会を立ち上げる予定です。



青木 晃

Aoki Akira

一般社団法人日本美容内科学会 理事長

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